これからの時代の

大学と社会の共創を

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武蔵野美術大学1/M(イチエム)は、多様で多彩な本学の取り組みや教育・研究成果を伝え、
社会とのつながりや共創の可能性を育む場を目指しています。

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EVENT

【lecture】公開講座「Explore the Design」第4回

公開講座「Explore the Design」は、広大なデザインの世界を探求しそのコアを見出すことをテーマとする講座です。昨年度までの3年間開催してきた「トップデザインセミナー」のエッセンスを継承しつつ、さらなる躍動を目指して開催します。

講師:
菱川 勢一 氏|武蔵野美術大学基礎デザイン学科 教授
菱川先生160
1969年東京生まれ。音楽業界からキャリアをスタート。1991年渡米。拠点をニューヨークへと移すと同時に映像業界へ転身し、編集エンジニア、サウンドエンジニア、映像ディレクターを兼務。CNNやNBCなどのニュース番組、TVCM、テレビ番組、ミュージックビデオ、映画製作、映画予告編製作などに携わる。帰国後フリーとして映像演出、舞台演出、空間演出、3DCG製作など横断的な活動後、モーショングラフィックス表現の草分け的存在として活躍する。その後、クリエイティブを複合的に生かし、ブランドデザインや商品の開発研究分野へ活動領域を拡げ、2011年、監督を務めたCM「森の木琴」がカンヌライオンズ三冠受賞。2011年より、写真集の発表、写真展の開催、短編映画の監督・脚本等をてがける他、2015年には、東京ミッドタウンにある21_21 design sightにて「動きのカガク展」展覧会ディレクターを務める。

日 時:
平成27年11月27日(金)19:00-20:30 終了後に参加自由の交流会を予定しています。

会 場:
武蔵野美術大学 デザイン・ラウンジ
(東京都港区赤坂9丁目7番1号ミッドタウン・タワー5階 東京ミッドタウン・デザインハブ内)
会場は同フロアのインターナショナル・デザイン・リエゾンセンター、交流会は武蔵野美術大学 デザイン・ラウンジで行います。

受講料:
1,000円(当日受付にて承ります)
※武蔵野美術大学の学生は無料(当日受付にて学生証をご提示ください)

定 員:
100名(申込先着順)

主 催:
武蔵野美術大学 デザイン・ラウンジ

運 営:
武蔵野美術大学研究支援センター

協 力:
東京ミッドタウン・デザインハブ

後 援:
港区

【Archive】

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・経歴
映像やりながら、デザインを学んできた経歴がある。
ソニー入社→NYでミュージックビデオ制作→ナガオカケンメイを含む6名とDRAWING AND MANUAL会社設立。

・会社にて
経営する会社では、web、音楽、グラフィックなど、ジャンルにとらわれない仕事をしている。
自分たちのクリエイティブを守るための最善策として、以下2つを守っている。

a. アウトソーシング化しない
現在、多くの企業は効率的に素早く仕事をするためにアウトソーシング(外部委託)を採用しているが、その風潮に逆行する会社であるといえる。つまり、すべての案件を自社で担い、撮影、スタジオ、エンジニア、デザインなどのプロセスを全て自社で行う。

b. 融資を受けて引き受けるような仕事もしない。

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・時代に求められる技術の広がり
グラフィック、web、映像の3つを行うのは当たり前の時代となった。また、カメラやスマートフォンなどのテクノロジーも高性能になり、かつ多くの人に普及した。
これにより、必要とされる視点はハードの技術だけではなく、ユーザーインターフェースやユーザーエクスペリエンスをどれだけ理解しているかが問われている。
つまり、ハードよりもソフト(ストーリーデザイン)を重視する需要が高くなってきている。

綺麗な映像を撮ることは素人でもできる。
ユーザーへ、どのようなストーリーを持たせて提供するかが仕事になる時代なのである。

・コンサルティング
具体的なものを作るわけではなく、議論で終わる仕事も引き受けている。

・会社と教育の共通点
会社の経営方針は、そのまま美術教育にも生かされている。
[会社]
・つくれるかどうかに徹底的にこだわる。
・利益のすべてをクリエイティブソースへと注ぐ。
・社外へアウトソーシングしない。=完全自社主義
・「ディレクター」というポジションは制作のすべてのプロセス(撮影・CG・編集・合成)を自身で出来ること。

[大学]
・つくるということにこだわり抜く。
・就職活動で忙しいというのは本末転倒である。
・むやみに外部へ発注しない。それはもはや作ってはいない。
・まずはチームワークを重視せよ。その上でそれぞれの役割を認識して習得する。

「相手が油断するほどアホらしく、やるときは徹底的にクオリティの高いことをやる。」

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・CNN、NBCなどのサブタイトル(テロップ)のタイポグラフィ
CNNのテロップをつくる仕事で、タイポグラフィに出会う。
速さを求められる仕事環境で、いかに適した文字を用意できるか。

映画の字幕は「1秒で4文字、1行で15文字、最大で2行」が基本ルール。
字幕のために翻訳する語句を省略したり、前後の会話とのつながりを考えて語句を変えるなど、PCではできないことを翻訳家は行っている。
アナログ作業上仕方なく生み出された書体(シネマフォント)が、現在でも味のあるフォントとして使用され愛されている。

予告編ムービー制作では編集のテクニックが問われる。
ここではムービー時間の都合上、映像と音声をずらしてカットを減らす方法など、独特の演出を用いている。現在はPCの編集ソフト技術が高性能であるがゆえに、ソフトに頼りすぎて映像が陳腐なものになってしまうというケースもある。
このようなテクニックも、シネマフォントと同様にアナログ作業上仕方なく生み出された演出である。

このように、テクノロジーが発達してもアナログ技術が必要とされる場面は多く、どれだけ過去の作品を知って、あるいは身体を動かして情報を集めているかが問われることもある。クリエイティブの延長線上には、いわゆる名作と呼ばれるもの(音楽や映画など)を鑑賞することも含まれているのである。

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・ディレクターとして
撮影の際の舞台設定は監督が指示するわけだが、「どの景色をどの角度でどのように取ろうとしているか」「ロケーションの天候条件や地域性はどのようなものか」「各仕事における専門用語は理解できているか」などは、撮影機材や技術と同時に知っておく必要がある情報である。なぜなら、瞬時に判断し、相手に明確に伝えなければならないコミュニケーションが連続的に発生するのが現場だからである。

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・東日本大震災に際して
「震災が起きたときクリエイターは役に立てない」ということを痛感した。
当時、NHKは震災直後よりも、2年後、3年後に震災番組を増やして未曾有の事故を忘れないよう注意喚起していくという意向があった。
その関係で、福島・会津を舞台にした大河ドラマ「八重の桜」に携わることになった。
オープニングムービーでは、200名以上もの福島の子供達(中には両親を失った子供もいた)をエキストラとして参加させたり、震災のリアルさを感じるために役者が冷水をかぶったりしていた。
単純にストーリーを表現するだけではなく「震災という大きな困難にどのように立ち向かうのか。復興のために我々は何ができるのか」という背景を抱えていたためか、関係者全員が並々ならぬ力を注いだ収録であった。

大河ドラマを通して、福島の方々の協力のおかげで復興のために役に立つ実感を得ることができたが、このように震災がターニングポイントになったクリエイターは多い。

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<まとめ>
テクノロジーとの付き合い方は、常に考えなければならないことである。その上で、コストや生産スピードをどうあげるか。
大河ドラマの例に見るように、実際の資金や時間のみだけでなく、背景を考えてものづくりに熱くなれることも、作品を形作る要素であることを忘れてはならない。

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