【lecture】第2回【各大学建築学科の教員・建築家によるレクチャー】ケンチクの未来は? 新しいケンチクの学びとは? ケンチク教育の現場からの報告
武蔵野美術大学(東京都小平市、学長 長澤忠徳)は、東京ミッドタウン内デザイン・ハブにて開催される、第54回企画展「ラーニング・アーキテクチャー2015|建築、学びの冒険─大学の建築設計課題の動向展」に関連して、トークイベントを行います。
現在、国内外で活躍する建築家に、ケンチクの未来、新しいケンチク、ケンチク教育の現場といった、建築という幅広い世界の展望から、それを支えていく新しいクリエイター人材をどう育てていくのかにフォーカスしてお話しいただきます。
展示詳細:第54回企画展「ラーニング・アーキテクチャー2015|建築、学びの冒険─大学の建築設計課題の動向展」
【各大学建築学科の教員・建築家によるレクチャー】
ケンチクの未来は? 新しいケンチクの学びとは? ケンチク教育の現場からの報告
第2回
日 時:
2015年12月5日(土) 16:00~19:30
講 師:
貝島桃代・花里俊廣・加藤研(筑波大学芸術専門学群デザイン専攻建築デザイン領域)、トム・ヘネガン(東京藝術大学美術学部建築科)、吉村靖孝(明治大学大学院理工学研究科)、藤村龍至(東洋大学理工学部建築学科)
司会=源愛日児(武蔵野美術大学建築学科)
会 場:
インターナショナル・デザイン・リエゾンセンター(東京ミッドタウン・デザインハブ内)
東京都港区赤坂9-7-1 ミッドタウンタワー5F
入場料:
無料
お問い合わせ先:
武蔵野美術大学 法人企画チーム
TEL : 042 – 342 – 7945
MAIL : kenkyu@musabi.ac.jp
<その他、関連イベント>
【各大学建築学科の教員・建築家によるレクチャー】
ケンチクの未来は? 新しいケンチクの学びとは? ケンチク教育の現場からの報告
第1回. 11月28日(土) 17:00〜19:30
講師:
小渕祐介(東京大学工学系研究科・建築学専攻・Advanced Design Studies)
司会=菊地宏(武蔵野美術大学建築学科)
第3回. 12月12日(土) 17:00〜19:30
講師:
小嶋一浩(横浜国立大学大学院建築都市スクールY-GSA)、高橋晶子・長谷川浩己(武蔵野美術大学建築学科)
司会=高橋晶子(武蔵野美術大学建築学科)
第4回. 12月19日(土) 16:00〜19:30
講師:
渡辺真理(法政大学デザイン工学部建築学科)、古谷誠章(早稲田大学創造理工学部建築学科)、岩岡竜夫(東京理科大学理工学部建築学科)、中山英之(東京藝術大学美術学部建築科)
司会=布施茂(武蔵野美術大学建築学科)
【Archive】
◯貝島桃代先生、加藤研先生
・デザイン専攻の紹介
情報デザイン領域:インフォメーションデザイン、インタラクションデザインなど
プロダクトデザイン領域:プロダクトデザイン、アプリケーションデザインなど
環境デザイン領域:ランドスケープデザイン、都市デザインなど
建築デザイン領域:建築デザインなど
デザイン専攻では「ものを切り開く」「整理する」を中心に、多角的視点から建築を思考する。
・具体的な担当授業の紹介
1年生:
[ 基礎課題 ]
HOUSE F(作:坂本一成)、軽井沢の山荘(作:吉村順三)をもとに、複製製図、模型制作を行う。
2年生:
[ Art Pavilion ]
自分の好きなアート作品を中心に1/30スケールの模型と周囲の環境を制作し、外観の写真を撮影する。
[ キッズファーニチャー ]
安全性を考慮し、木の特性を活かした子供用の家具を制作する。
3年生:
[ 住宅、複合建築の設計 ]
オーストラリアから外国人の先生をお招きし、英語のコミュニケーションを中心としたオーストラリア建築の設計課題の授業。現地に赴き、環境を考慮したオーストラリアにおける建築をデザインする。
[ 建築設計論 ]
提示した建築関係書籍を読み、住むこと、社会、環境などの観点から論文を提出する。
4年生:
[ 卒業論文&卒業制作 ]
その他:
[ 大学を開くArt Design Produce ]
学科や学年にとらわれないプロジェクト。
ある対象(場)におけるコミュニケーション、コラボレーション、コーディネーションを総合的に学ぶ。
ex.)稲四季弁当プロジェクト
地域密着型のデザインプロジェクト。茨城県稲敷市を構成する4つの地域をまとめるために、生産物を利用した商品「稲四季弁当」を開発した。現在では、地域活性化へとつなげるプログラムとして、看板アート制作にシフトしている。
ex.)パプリカ
病院の環境を考えるプロジェクト。アスパラガスというワークショップなどを考えるチームと、パプリカというプロダクト、建築空間、インテリアなどを改善するためのチームで構成されている。パプリカにおいては、放射線検査室の陰鬱な雰囲気を改善するため、照明、空間などの改善を試みている。
◯トム・ヘネガン先生
過去6年間、トム・ヘネガン研究室はAAスクール(Architectural Association School of Architecture)をはじめとする様々な海外の大学とワークショップを行った。
・芸大とAAスクールの比較
芸大は岡倉天心が創立、AAスクールはジェームス・ウィルソンが創立したが現在の教育体制を築いたのはアルヴィン・ボヤースキーである。どちらも都市の中心部に位置し、周辺に国立博物館がある。地域に密着した形で設立しており、芸祭、パビリオンなど、地域との交流を意識したイベントが年に数回開催されている。また、芸大は公園内、AAスクールは街の中にあるため、後者の方が都市にフォーカスした授業内容が多い傾向にある。
アルヴィンの提案した教育方法としては、バイキング形式の授業選択である。
学生に美味しそうなもの(授業)を紹介し、選ばせる。それゆえ、明確なカリキュラムは提示しない。週に一回発行されるチラシには、授業の紹介が書かれ、学生の講義選択のきっかけを作っている。
1952年、アルヴィン・ボヤースキーは「戦後のロンドンの地をどのように変えるか」、「建築を通じてどのように社会に関わっていけるか」といった都市形成を、戦略的な構造で表した設計図をもとに提案した。
アルヴィン・ボヤースキー:
[ ローコストハウジング(低所得者住宅設計) ]
ユートピアを示した設計。各々の空間は小さいが、庭で周囲を囲んだ設計である。
ピーター・スミッソン、アリソン・スミッソン:
[ ロビンフッド・ガーデン ]
美しい風景(ユートピア)ではなく、日常はあくまでストリートで行われている。道のアイデアを建物に持ち込んで、建物と道の関係性を近づけたものを提案した。
成功した例とは言えないが、現状を変えようという未来への希望の中から生まれた設計である。
・トム・ヘネガン先生が学生時代に行ったプロジェクト
ウェンブリン(ロンドンの郊外)の街。大きなパブがあるのが特徴。ここに大きなショッピングモールや集合住宅を作る課題。代表的なロンドン郊外の街では、各々の住宅がクルブサックを持っている。ウェンブリンスタジアムでイベントがある時は、かなり多くの人が集まる。
この周辺にはパブが無い。そのため、駅の反対側におおきなパブが作られた。調査の結果、パブを立ち寄ってからスタジアムに行くというルーティーンが見られる。駅からパブまでの道は最重要道路であるとし、彫刻物を配置した。重要なことは住宅において、駅に近いということで、最適な導線を引くことを提案した。この道は、シンメトリーであることが重要。ここではあくまでデザインは行っておらず、コピーのみを行っている。強いて言えばそれに付随するトンネルのデザイン。
住宅の部分の一つの部屋のドローイング。電車の時刻を見て、近づけばそのまま駅に直結しているという設計になっている。
・大学院生による解説
今年の春にAAスクールとのワークショップを行った。
各大学20名程度参加。フィールドワークに基づいて都市の複雑性を理解し、現状の都市に介入する手段を検証した。
◆DIRECT URBANISM
フィールドワークを通じた都市の物的構造・社会的構造の解明と、それに対する空間的解明を試みるため、御茶ノ水周辺を対象に実験した。
・「漂流」
現地で調査を行い、社会的構造を10の要素に分類した。
神田明神の絵馬にアニメが描かれる。絵馬、アニメという一つ一つの独立物的構造が秋葉原、神田という地域条件と重なり、社会的構造を作り出している。
・「スキャン」
発見した物的・社会的構造を思い出しながら5分間ドローイングする。
それを3Dグラフィック化する。
・「テリトリー、ポイント、バウンダリー」
スキャンと提案の二つの分類をそれぞれのグループで製作し、現在の都市構造に対して介入を試みる。
以上のプロセスにより、個人の物的・社会的構造に対して建築設計が介入しうる可能性を示すことができたと考えられる。
◆ALTERNATIVE GUIDE, TOKYO UN-PLANNED
非公式な公共空間、偶発的な建築・マイクロ都市を調査した。
今回のワークショップでは、赤瀬川原平と都市住宅による「トマソン(※1)」の概念を再検討する。
1. RESEARCH / SAMPLING
駅、市場、首都高速を調査。
そこにあるトマソンを収集した。
2. COLLAGE
トマソンがオブジェクトと都市の間、ミクロとマクロの間、ボトムアップとトップダウンの間にどのような衝突を生むのかを考察した。
これをもとに、トマソンを断片的に切り離し、再構成(コラージュ)した。
3. RECONSTRUCTION
コラージュの中でおもしろいシチュエーションを抽出し、模型・3Dドローイング、ハンドドローイングを行った。
以上のプロセスから、起こりうる東京の未来を再構築することで、建築がどのようにして複雑な都市形成の中に反応し、かつ対応できるのかを推測した。
◯吉村靖孝先生
I-AUD(International Program in Architecture and Urban Design)= 明治大学 大学院理工学研究科 建築・都市デザイン 国際プロフェッショナルコース
・明治大学の建築学科から国際プログラムをスピンアウトさせたような大学院の授業形態。
ここではすべての授業が英語である。
・30名ほどの学生が在籍しているが、学年の垣根が無いのと、交換留学制度を採用しているため、年度によって人数が変動する。
・年間5~6回程度、国際ワークショップを行う。
ex)香港大学、南カリフォルニア大学、明治大学のワークショップを上海で行う。
「アジアの都市の特徴の一つはハイブリニティではないか」という仮説のもと、日本、香港、上海の3つの地域の特質を抽出し、比較する。
・イブニング・レクチャーの開催。日本にいる外国人留学生たちの中には日本語が得意ではない人もいるが、その人たちは果たして日本人の考えを理解できているのだろうか。ここでは、日本人のゲストも英語でレクチャーをし、日本の建築についての理解を深める。
・英語vs日本語
たとえ授業に留学生がいなくても、英語で授業を行うことで、自分の主張を発現できる、あるいはプレゼンテーションができる程度の英語力を身につけることができる。
英語にこだわる理由は、近い将来、外国人の建築家やビジネスマンが日本に進出し、「日本にいるから英語ができなくてもいい」という時代ではなくなるだろうからである。
設計に与える影響もあり、英語だと言葉が少ないゆえに、日本語ほど曖昧なことが言えない。
つまり、必然的にわかりやすいプロジェクト、作品になっていくのである。
・建築vs都市
アーキテクチャー&アーバンデザイン
大学院1年の最初の課題は都市開発系の課題を行う。建築を学んできた学生が都市について考えると、非常に俯瞰的なものになりがちな傾向にある。都市計画、建築は本来分けて考えるべきではない。それゆえ、いかに偏らないようにするか、ということで「アンダーグラウンド」という課題を設けている。
地下という密閉空間に制限することで、外側からではなく内側から建築を考えなければならない。
・スタジオvs研究室
スタジオに入る学生、研究室に入る学生は、目的に差異が生じている。
スタジオ:じっくり腰を据えて研究したい
研究室:自分のことをやりたい
・ワークショップvsスタジオ
海外交流に力を入れた授業形態をとることによって、海外にネットワークが増えていく。
これは今後、自分が関わることになるかもしれないという種まきに似ている。
・大学院vs学部
国際交流に主眼を置いた学部形態は悪い点もいくつか存在する。
大学院では、海外の留学生の受け入れはしているが、建築士の資格の条件が満たせないのが難点。
また、お互いでお互いのマインドを理解しやすいという利点を生かし、デザイナーにとっては近くにエンジニアがいる、エンジニアにとっては近くにデザイナーがいるという日本で多く見られる形態が再現できておらず、交流が生まれにくいことも挙げられる。
・地上vs地下
課題「Underground」
事例研究、現地視察、インフォグラフィクス化などのデータ収集・調査から、地下の都市計画を考える。
◯藤村龍至先生
郊外で縮小の建築を学ぶ~ソーシャル・アーキテクトをめざして~
・丹下健三の時代の都市の課題(1960年)
東京に一極集中させ、人口拡大を中心に考えられていた。
現代では、逆に縮小傾向にある。ではその縮小都市像とはいったい何か?というのが課題の焦点にある。
・政策と「学」の関係
大学は本来「研究」と「教育」の機関であるが、しばしば「研究」に学生が利用されることがあった。
例に挙げると、東京大学丹下研究室が設計した代々木競技場は、丹下健三の仕事の一環でもある案件だった。しかし、その後に起きた大学紛争(1968年)以降は、学費を払ってまで仕事をさせるような授業はタブーになった。
時を経て2000年代以降は、実践的かつ実験的な試みで社会に密接に関わる「産学協同」という形が推奨されるようになり、学生が学ぶ場も広がることとなった。
・PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)
現代の大学:企業から「実践力」を求められる
文科省「L型大学(※2)」:地元との連携を求められる
この二つの要求に応えるべく確立された授業方針がPBLである。
・地域が抱える問題
自治体:今までにない課題に取り組む必要性
(人口減少/空き家問題/公共施設再配置など)
政策形成プロセスにおいて「学」をどう使うか?
・授業内容
まず図面をかけるようになることから始める。
学部4年生になる頃には実践的な図面をかけるよう指導する。
建築の学生も段階的にできることが広がっていくので、それに合わせた課題を用意して、ステップアップを図っている。
・学生を取り巻く社会環境
a. 手描き図面・2次元CAD・3次元CAD・BIMなど技術が発展し、コンピュータ技術や建築に関する知識をインプットしなければならない
b. 建築ハコモノ批判・「建築はもう要らない」という思想
以上の相反するメッセージ・メタメッセージが、学生に対して二重拘束状態を生む。これは、学生に対して不要な迷いを生ませてしまう。
→「なぜ建築に取り組むのか?」をどう実感させるのか?
一つのインプットに対して一つのアウトプット、そしてそのプロセスの反復によって学びとする。
完成品を単純に良い悪いで評価するのではなく、それに至るプロセスにこそ本質があり、指導の価値があるのではないか。
・鶴ケ島市の都市開発プロジェクト
鶴ケ島市は、1960年代に住宅地が開発されてきた。それに伴い、人口は約70年で10倍に膨れ上がった。
しかし、国から渡される公共施設事業費、社会保障関係費の額も逆転し、現在では社会保障関係費の方がはるかに多い。
そのため建築に回せる費用は少なく、「壊れてから建てる」「雨漏りしてから修理する」など、事後的にしか資金を回せなくなった。
-課題のまとめ-
1. 高度成長期に生産人口が流入→高齢化が深刻
2. 財政難が予想される
3. 統廃合には反発が予想される
以上のことから、行政の公開情報をもとに維持可能な床面積を推測し、公民館機能を複合した小学校の設計を課題として行った。
地域の人間を対象にプレゼンとワークショップを繰り返し行い、案をまとめる。
最終プレゼンでは、実際に地域の住民を招いて、どうするのが最適なのかを議論する場(パブリックミーティング)を設けた。
後日談ではあるが、市が正式に取り組んでいくプロジェクトとして発進していった。
翌年、建てることを前提に模型を設計し、同様にプレゼンを行った。
最終的に建築物の組み立てにも関わり、地域の住民と協力して複合小学校を完成させるに至った。
これからの話ではあるが、市全体にの施設をどう再配置していくか、具体的に建築物を建設していくことを念頭に、プロジェクトが進んでいる。
・大宮東口プロジェクト
老朽化が進んでいる大宮東口。
東京芸大と東洋大のコラボレーションプロジェクトで、鶴ケ島市と同様のプロセスを踏みながら、模型の展示などを行って、住民への啓発を促した。
たまたま降って来た話で、デパート内の一角にアーバンデザインセンターを作るということで、そこで常設展やパブリックミーティングをすることとになった。
また、大宮の開発動向としては、2020年以降に大宮小学校をどうするのかという話がある。
この16万㎡の潜在床をどのように開発するかを、小学校を残すかどうかも踏まえて容積率0%~600%まで100%毎に模型を作ってプレゼンを行った。
・公共政策と「学」
1. 理念や構想をかたちに置き換えたいとき
2. ニーズが変わるとき
3. 制度が変わる時/発注の形式が変わるとき
→社会実験の場と教育の場を重ね、職業意識を醸成する
・ソーシャル・アーキテクト
1. みんなで集合的に考える
2. ゆっくり段階的に考えること
3. 判断を尊重して、その思想が表れるように設計すること
→学=中間的組織の可能性
→→ソーシャル・アーキテクト教育へ
※1 トマソン…1970年代、赤瀬川原平とその友人たちが、もともとの機能を失ってはいるがユニークな存在として残り続けているオブジェクトを「トマソン」と名付けた。
※2 L型大学…2014年に文科省が提言した教育機関のあり方で、L型大学・G型大学と呼ばれる。L=Localのことで、地域密着型の仕事を学ぶ職業訓練校的な大学をL型大学と呼ぶ。逆に、世界を視野に入れたグローバル人材を育てる大学をG型大学(G=Global)と呼ぶ。